ドローンに銃を取り付けて発砲する様子を捉えた映像がインターネット上で議論を巻き起こしている。
そもそも銃や火炎放射器といった武器に分類される物体をドローンに取り付けることは違法なのか。
それを取り締まる法律にはどれが該当するのか。
ぼくがこの映像を知るきっかけとなった記事を参考に、時系列で発生した出来事を整理してみたいと思う。
違法性
まず結論から言うと、現行アメリカの法律で銃をドローンに取り付けることを違法とする法律は存在しないということだ。これは先日Twitterでも共有した通りである。動画に興味がある方はぜひ下記のリンクから参照していただきたい。追記: 以下<更新>を参照
<更新>
同記事から2016年6月13日に出された修正文によるとネバダ、 ノースキャロライナ、オレゴン、バーモント、ウィスコンシン州は銃火器を搭載したドローンに制約を課す法案が施行されている。
発端
はじまりは2015年7月、アメリカに住むティーンエイジャーの少年とその父親が自作のドローンに取り付けた銃を発砲している動画”Flying Gun”をYoutubeにアップしたことだった。
動画は瞬く間に口コミとなり、2016年6月現在の閲覧数は370万ビューを超える。
そしてこの数ヶ月後に今度はドローンに取り付けた火炎放射器で七面鳥を焼いている動画”Roasting the Holiday Turkey”をアップロード。
これがFAA(アメリカ連邦航空局)の目に止まり、この親子に対する調査が始まることになる。
捜査には反対
ところがこの親子はFAAの調べには応じない。FAAは関連する写真や動画、火炎放射器の購入時のレシートやYoutubeのマネタイズに関わる情報を要求していたという。親子は裁判でこれらの書類が証拠として使用されるのを拒んだのだろう。FAAの供述書によると父親は息子を守るために法の行使も辞さない覚悟だと述べている。
親子を法廷に召喚するというFAAの試みは現在コネティカット州裁判所に対して申し入れされているが、親子は引き続き召喚を拒んでいる。現在のところこの親子は何の罪にも問われていない。親子の担当弁護士によると、この問題はかつてない最も重要なドローンの判例になるだろうと述べている。
さらにこの弁護士の主張によれば、ドローンは厳密には航空機ではないため、FAAはいかなる調査、親子の所有物差し押さえに関する権限を有していない。
FAAの見解
2015年までFAAのトップを勤めていたJim Williams氏によると、彼の在籍中、FAAのスタッフはこの親子のドローンの扱いや一般的にドローンに銃を取り付けることを違法とする法令を見つけることはできなかったという。
実際最初の銃ドローンの動画は彼のFAA在籍中に投稿され、彼もチームメンバーとともにそれを目にした。取り締まることを考えたのも束の間、本社の専門家によれば、FAAはこの件に対しては何のアクションも取ることができないという。この少年は自分の所有物を所有しているのであり、ドローンも地面近くを飛んでいるだけだ。銃は山奥と見られる場所で地面に向けて放たれており、この少年は人に被害を与えないよう配慮しているように見受けられる。
なるほど、銃社会アメリカでは許可さえあれば銃の所持は合法である。銃を持っていることはそれほど珍しいことではない。もちろん通常の銃に関する法律は、この銃ドローンにも適用されるのだが。
同時にこれは、アメリカではドローンに銃を取り付けることを違法とする法律はないということをFAAが認めたということでもある。
FAAにそもそも取り締まりの権限はあるのか?
2015年12月にFAAから発行された白書は、銃や類似の武器をUAS(無人航空機)に取り付けることの規制は従来より各州の法律や地方の警察に委ねられてきたと述べている。
Williams氏によると、アメリカ連邦議会は未だFAAに対してドローンの武装を禁ずることのできる権力を与えていないという。すなわちFAAはドローンに武器を取り付けることに対して取り締まる何の権限も有していないということである。
この親子の動画が口コミで話題になった後、コネティカット州はドローンの武装を禁ずる法案作成を検討。しかしながらまだ可決されていない。
Williams氏によると、火炎放射器の動画は彼がFAAを去った後に投稿されたという。彼によれば、火炎放射器のケースは、仮にドローンが制御不能に陥った場合、山火事や人家に放火する可能性があることから、安全を無視した無謀な飛行に該当するとして、FAAはこの行為を取り締まる行動に出たのだろうと言う。
調査の目的はいったい?
さて、ドローンに銃を取り付けることが違法ではないのならば、なぜFAAはこの親子の調査を行っているのか?
FAAから裁判所に提出された書面によれば、親子が安全を軽視した不注意な飛行を行ったことを主張するため、ドローン規制に用いられている従来の有人航空機の法律を適用したかったと読み取れるという。
記事はこうも述べている。
もしFAAがこのケースは既存の如何なる法律違反でもないということを内部で決定していたのであれば、今回の騒ぎは既存の法律がこの問題を取り締まるかどうかを実験する試みのようにも見える。実際にこの少年を法廷に召喚するための法的な壁はそれほど高くない。そして、この騒ぎはすでに国民の十分な関心になってしまったからこそ、FAAはあえて調査をしているのではないかと。(違法ではないと知っていていながら見せしめ目的で。)
ドローンは近年急激に発展を遂げた新しい技術である。一方で既存の法律は過去の歴史の中でたびたび改訂されてきたものである。日進月歩で進化を遂げる技術に対して、現行の法律に穴やグレーゾーンが見つかってしまうのは致し方ないことであろう。
しかしながら今回のケースは取り付けられたものが銃器であり、凶器に成り得ることを鑑みると社会的インパクトは大きい。とりわけ武器として悪用されることのリスクや使用された場合の社会的人的被害を考えると、現行の法令を例外扱いとして適用できるような仕組みが早急に考えられなければならないだろう。
<Source>
http://motherboard.vice.com/en_uk/read/arming-your-drone-is-legal